今回は佐賀大学農学部 生命科学講座 生化学研究室に所属されている辻田先生に携わられている研究分野と今後の展望について話を聞いた。
化合物・健康食品成分の探索
「私は、体の内外からうける環境刺激に対して、生物がどのように応答しているのかを生化学、分子生物学的に解析し、病態発症や老化を防ぐ方策の研究を進めております。具体的な刺激としては酸化ストレスや低酸素、さらに最近では感染に対してです。一連の研究を推進する上で、遺伝子欠失動物や細胞などを作出しますが、この表現系から導き出されたタンパク質分子の性質や形を元に、創薬分野への応用や、健康食品成分の探索・提案などを行っております。」
辻田先生の研究室では、主に細胞を使用した、化合物の探索や、健康食品成分の探索が行われている。しかし、研究の中で発見された化合物は時に全く違う挙動を示すことがある。
「人工的な培養条件の細胞で作用する濃度と個体で作用する濃度は大きく異なることがわかっており、そのため、取得した化合物を個体に応用する際には、注意深く濃度設定をすることが重要となります。」
SpectraMax i3x/MiniMaxの導入
「モレキュラーデバイス社のi3x/MiniMaxを導入する前は、96穴プレートや、一本一本のキュベットで細胞の応答を観察していました。しかし、このような測定作業は非常に手間と時間がかかります。私たちの研究では、化合物のスクリーニングや最適化をスタートとして基礎的な研究を展開しておりますので、細胞の測定作業を行う際は多数の検体を高速かつ、簡便に判定していく必要があります。また、それに対する試薬のコストもかなりかかりますので、すくなくとも384、可能であれば1536ウェルプレートでの測定が必要になってきます。このような多検体の高速スクリーニングを可能にするプレートリーダーがi3xでした。実際に導入後は、この384のプレートを使用した多検体のスクリーニングが可能となり、かつ、蛍光、吸光、発光の3モードでの測定が可能となりました。また、このMiniMaxをオプションで付けることによって、細胞の形態を同時に観察することも可能になりました。プレートリーダーの機能に加えて、細胞の画像取得も可能ですので、1台で様々な業務の実施が可能になりました。」
今後の研究の展望
現在辻田先生は、酸化ストレス応答転写因子、Nrf1やNrf2の分子メカニズムの解明に挑んでいる。Nrf2は通常状態においてはKeap1を主体とする複合体によりユビキチン化を受け、常に分解されている。ひとたび酸化ストレスをうけるとKeap1の構造が変化して、Nrf2のユビキチン化が停止する。結果として、Nrf2が安定化し、酸化ストレス防御タンパク質群を強力に誘導する、ということが解明されている。それに対して、NrfはNrf2と非常に似かよった転写因子であるにも関わらず、機能については未解明の部分が多い。
「近年、欧米の研究者や、日本の研究者によってNrf1の分子メカニズムがかなり解明されてきました。まだ非常に黎明期の分子ではありますが、最近ノーベル賞で注目を集めておりますオートファジーやプロテアソームといったタンパク質を分解する機能の制御にも関与することが解明されててきており、今後この分野がもっと広がっていくだろうと考えています。私の目標は、環境ストレス応答転写因子を活用した老化制御ですので、Nrf1を制御する化合物であったり、健康食品の成分の探索を、このi3x/MiniMaxを使用して、今後も研究を進めていきたいと思っています。」
今後Nrf1の分子メカニズムが解明され、老化を制御するような新たな化合物や健康食品成分が発見される日もそう遠くないかもしれない。