Application Note 多項目評価が可能なTHP-1細胞アッセイによる抗炎症作用の検証
- 限られたサンプル量で複数のアナライトを測定
- 試薬使用量を5~10倍削減し、3時間以内に結果を取得
- 自動イメージングによりマクロファージ分化を観察
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はじめに
Oksana Sirenko, PhD|シニアリサーチサイエンティスト|モレキュラーデバイス
Cathy Olsen, PhD|シニアアプリケーションサイエンティスト|モレキュラーデバイス
Evan Cromwell, PhD|CEO|プロテイン・フルイディクス
マクロファージは、血液中の単球が循環系を離れてさまざまな組織に浸透し、そこでマクロファージへと分化することで生じます。これらの細胞は、病原体の除去や死細胞の貪食に関与しています。さらに、サイトカインを放出することで炎症を開始し、血管細胞を活性化させ、マクロファージの血管への接着および組織への移行を促進します。分化したTHP-1細胞は、炎症反応におけるマクロファージの関与を研究するためのin vitroモデルとして広く使用されています。ヒト単球系細胞株THP-1は、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)によってマクロファージへ分化させることができ、細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)によって活性化されます。活性化されたTHP-1細胞は形態が変化し、接着性が高まります。また、LPSによって誘導される細胞シグナル伝達カスケードの結果として、炎症性サイトカインを分泌します。サイトカインの発現レベルは、炎症モデルにおける重要な生理学的指標です。
本研究では、多パラメータTHP-1細胞ベースアッセイの結果を紹介します。ImageXpress® Pico 自動細胞イメージングシステムを用いた表現型イメージングにより、細胞の形態と接着性を評価しました。また、Pu·MAシステム上で実施した微量ELISAと、SpectraMax® iD5 マルチモードマイクロプレートリーダーによる検出を通じて、分泌されたサイトカインを測定し、化合物が炎症反応に与える影響を評価しました。多パラメータアッセイのワークフローは図1に示されています。
PMAおよびLPSで刺激したTHP-1細胞では、IL-8、IL-1β、TNF-αの分泌が増加しました。抗炎症化合物の効果を評価するために、p38 MAPキナーゼ(MAPK)阻害剤SB202190およびピロリジンジチオカルバミン酸(PDTC)、ならびに抗生物質モキシフロキサシンを細胞に追加で処理しました。SB202190はJAK/STATおよびNFκB経路に作用します *2。抗酸化剤PDTCはNFκBの活性化を抑制します *3。モキシフロキサシンは、NF-κB、ERK、JNKの活性化を阻害することでIL-8およびTNF-αの分泌を抑制します *4。これらの化合物による炎症反応の抑制は、細胞接着性およびサイトカイン・ケモカインの分泌量の変化を定量化することで測定されました。選択した化合物では、濃度依存的な発現低下が確認されました。細胞形態および接着性への影響も、細胞画像の表現型解析によって評価されました。

図1. マルチパラメトリックアッセイのワークフロー。ImageXpress Picoシステム、Pu-MAシステム、およびSpectraMax iD5リーダーを使用して、マクロファージ形成を表現型解析し、分泌サイトカインレベルを定量して、炎症反応に対する薬理学的化合物の効果を評価した。
材料
- THP-1細胞(ATCC)
- PMA(シグマ)
- LPS(シグマ)
- SB202190(シグマ)
- PDTC(シグマ)
- モキシフロキサシン(シグマ)
- IL-8、IL-1ß、TNFα用ELISA抗体ペア(BioLegend社製)
- ImageXpress Pico自動細胞イメージングシステム(モレキュラーデバイス)
- Pu-MAシステム(Protein Fluidics社製)
- SpectraMax iD5マルチモードマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス)
方法
- THP-1細胞を96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり20,000細胞で播種し、48時間インキュベートしました。その後、PMAおよびLPSの混合液(PMA:0~5 pg/mL、LPS:0~100 pg/mL)で24時間刺激しました。
- 抗炎症化合物は、刺激の2時間前に添加しました。
- インキュベーション後、各ウェルから60 µLの上清を採取し、ELISAに使用しました。サンプルは新鮮な状態で解析するか、-70°Cで保存して後日解析しました。
- 上清はアッセイバッファーで3:1に希釈し、Pu·MAシステムのフローチップと試薬を用いてIL-8、TNFα、IL-1βを測定しました。結果はSpectraMax iD5プレートリーダーの吸光度モードで検出しました。
- 細胞はImageXpress Picoシステムを用いて透過光(TL)でイメージングしました。非接着細胞は培地で2回洗浄して除去しました。TL画像中の細胞は、CellReporterXpress™ イメージ取得・解析ソフトウェアを用いてカウントしました。
結果
PMAおよびLPSで刺激すると、活性化されたTHP-1細胞はプレート表面に接着し、サイトカインの発現が増加しました。ImageXpress Picoシステムの透過光イメージングにより、刺激前後の細胞形態を比較しました。
THP-1細胞の刺激によって生じた表現型の変化を図2に示します。細胞形態は、単球に典型的な小さく丸い非接着性の形態から、より大きく平坦で接着性の高いマクロファージ様形態へと変化しました。非接着細胞を洗浄で除去した後に残った接着細胞の数は、ImageXpress PicoシステムおよびCellReporterXpressソフトウェアを用いて定量しました。

図2 未刺激(左)または刺激済み(右)のTHP-1細胞の透過光画像。上段は非接着細胞除去前、下段は除去後の画像です。CellReporterXpressソフトウェアによる細胞カウント解析用マスクは、下段画像の白色領域に示されています。
細胞刺激に応答して分泌されたケモカインIL-8およびサイトカインIL-1β、TNF-αの濃度は、Pu·MAシステムを用いて上清中で測定しました。この自動化システムは、10~20 µLの少量サンプルと既存の抗体ペアを使用できるため、サンプル量が限られている場合でも複数のアナライトを測定可能です。細胞刺激によるケモカインおよびサイトカイン分泌の増加は図3に示されています。刺激細胞では、IL-8が30倍、IL-1βが6倍、TNF-αが15倍に増加しました(未刺激細胞との比較)。

図3 LPS刺激に応答したケモカインおよびサイトカインの分泌。IL-8(A)、IL-1β(B)、TNF-α(C)の濃度は、LPS刺激により増加しました。
刺激されたTHP-1細胞における細胞形態、接着性、IL-8分泌に対する複数の抗炎症化合物の影響を調査しました。抗炎症化合物による細胞形態の変化は、ImageXpress Picoシステムを用いてイメージングしました(図4)。抗炎症化合物による細胞接着性の変化を測定するため、洗浄前後の接着細胞数を画像解析により定量しました。画像中の細胞はCellReporterXpressソフトウェアでカウントし、データはSoftMax Proソフトウェアにインポートして、4パラメータカーブフィットによりEC₅₀値を算出しました。これらの細胞から得られた上清は、Pu·MAシステムおよびSpectraMax iD5プレートリーダーを用いて、抗炎症化合物がIL-8分泌に与える影響を評価しました。SB202190、PDTC、モキシフロキサシンによる処理は、IL-8分泌を濃度依存的に低下させ、接着細胞数の減少も引き起こしました(図5)。4パラメータカーブフィットによって算出されたEC₅₀値は表1に示されています。

図4 抗炎症化合物がTHP-1細胞の表現型応答に与える影響。上段:PMA + LPS刺激の有無によるTHP-1細胞の透過光画像。下段:PMA + LPS刺激前に抗炎症化合物で処理した刺激細胞。

図5 抗炎症化合物がIL-8濃度および接着細胞数に与える影響。
|
EC 50 μM |
aIL-8 | IL | TNFα | Adhesion |
|---|---|---|---|---|
| PDTC | 201 | 42 | 63 | 33 |
| 2B202190 | 6.6 | 9.8 | 6.4 | 6.6 |
| モキシフロキサシン | 17.4 | 9.9 | 17.9 |
17.1 |
表1 SoftMax Proソフトウェアによる4パラメータフィットから算出されたEC₅₀値。
結論
本研究では、THP-1細胞モデルを用いた多パラメータ炎症アッセイをご紹介しました。このアッセイには、ImageXpress Pico 自動細胞イメージングシステム、Pu·MA 微量自動ELISAシステム、SpectraMax iD5 マイクロプレートリーダーを使用しています。処理した細胞はImageXpress Picoシステムでイメージングされ、CellReporterXpressソフトウェアにより刺激に応答して接着した細胞をカウントしました。Pu·MAシステムでは、既存のELISA抗体ペアを用いた免疫測定を、試薬使用量を5~10倍削減できるマイクロフルイディックフローチップで実施し、3時間以内に結果を取得しました。ELISAの結果はSpectraMax iD5プレートリーダーで検出され、SoftMax Proソフトウェアで解析されました。このワークフローを用いて、3種類の抗炎症化合物に対するケモカインおよびサイトカイン(IL-8、IL-1β、TNFα)の分泌変化をモニタリングしました。観察されたケモカインおよびサイトカインレベルの変化は、既報の作用機序と一致していました。
参考文献
- Optimized THP-1 differentiation is required for…; Park et al, Inflamm Res. 2007, 56, 45.
- p38α MAP kinase serves cell type-specific inflammatory functions…; Kim et al, Nat Immunol 2008, 9, 1019.
- PDTC is a potent antioxidant…; Zhu et al, FEBS Letters 2002, 532, 80.
- Anti-Inflammatory Effects of Moxifloxacin…; Weiss et al, Antimicrob Agents Chemother 2004, 48, 1974.
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