Application Note cAMP-Gs HiRange HTRFアッセイで
GPCR活性を高感度検出
- 認証済みHTRF互換性により、装置性能を確実に保証します
- HTSに対応した高い堅牢性を持つ均一なアッセイです
- SoftMax Proソフトウェアの事前設定済みプロトコールで、結果取得までの時間を短縮します
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はじめに
HTRF®は、Cisbioによって開発された、生体分子間相互作用を検出するための汎用性の高い技術です。この技術は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と時間分解蛍光測定(TR)を組み合わせることで、短寿命のバックグラウンド蛍光を除去できます。アッセイでは、ドナーおよびアクセプター蛍光体を使用し、これらは結合を解析するタンパク質やその他の生体分子に標識されます。2つの分子が結合すると、ドナーとアクセプターが近接します。ドナーが光源(例:フラッシュランプ)によって励起されると、アクセプターにエネルギーが移動し、特定の波長で蛍光を発します。
HTRFでは、互換性のあるドナー-アクセプターTR-FRETペアを形成するために4種類の蛍光体が使用されます。ドナーはユウロピウムクリプテート(Eu³⁺)とテルビウムクリプテート(Lumi4™-Tb)であり、その長寿命蛍光により時間分解蛍光アッセイで利用可能です。アクセプターにはXL665とd2の2種類があり、どちらもHTRFドナーの発光スペクトルと重なる励起スペクトルを持ち、665 nmでピークを示します。この領域ではドナーの発光がほとんどないため、検出に適しています。XL665は紅藻由来のフィコビリタンパク質色素であり、d2はXL665の100分の1のサイズに改良されたアロフィコシアニンで、XL665ベースのアッセイで発生する立体障害の問題を軽減するために開発されました。
HTRF cAMP HiRangeキットは、細胞試料中の環状AMP(cAMP、cyclic adenosine 3’, 5’-monophosphate)を定量できます。cAMPは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)シグナル伝達における重要なセカンドメッセンジャーです。リガンドがGPCRに結合すると構造変化が起こり、受容体が活性化され、次にGタンパク質が活性化されます。シグナル伝達のさらなる進行は、活性化されたGタンパク質の種類に依存します。Gsタンパク質の活性化は、アデニル酸シクラーゼによるcAMPの増加を引き起こします。細胞で生成された遊離cAMPは、抗cAMPクリプテートへの結合をめぐってd2標識cAMPと競合するため、細胞内cAMPが増加するとFRETが減少し、665 nmでの蛍光減少として検出されます(図1)。
図1. cAMPアッセイの原理 細胞で生成された非標識cAMPは、抗cAMPクリプテートコンジュゲートへの結合をめぐってd2標識cAMPと競合します。そのため、細胞内cAMPの増加はFRETの減少につながります。
ここでは、CisbioによってHTRF互換性が認証されたSpectraMax® i3xおよびSpectraMax® iD5マルチモードマイクロプレートリーダーを使用し、GPCR活性を評価する堅牢なウォッシュ不要アッセイの実施方法を紹介します。
材料
- cAMP Gs HiRangeキット(1000テスト、Cisbio)
- 白色小容量384ウェルマイクロプレート(Greiner)
- SpectraMax i3x マルチモードマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス、型番:i3x)
- SpectraMax iD5マルチモードマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス、型番:iD5)
- SpectraMax i3xプレートリーダー用HTRF検出カートリッジ(モレキュラーデバイス、カタログ番号0200-7011)
- HTRF 検出システム(モレキュラーデバイス、カタログ番号 #6590-0144、Enhanced TRFモジュールおよびHTRFフィルターを含む)、SpectraMax iD5プレートリーダー用
方法
cAMP Gs HiRangeキットはCisbioから提供されました。最終濃度0.17 nM~2800 nMのcAMP標準液を、キットの添付文書に従って調製しました。最大FRETを示すcAMPなしの陽性コントロールと、cAMPおよびcAMP-d2を含まない陰性コントロールを含めました。試薬は、低容量384ウェルマイクロプレートに各ウェル20 µLの最終容量で分注しました(表1参照)。
| 陰性コントロール | 陽性コントロール | 標準曲線 | 測定コントロール |
|---|---|---|---|
| 5μL 希釈液 | 5μL 希釈液 | 5μL cAMP 標準液 | 5μL cAMP コントロール |
| 5 μL 希釈液 | |||
| 5 μL コンジュゲート&溶解バッファー | 5 μL cAMP-d2 | ||
| 5 μL 抗cAMP-クリプテート | |||
表1. 384ウェル低容量プレートでのアッセイ設定
プレートを覆い、室温で1時間インキュベートしました。時間分解蛍光は、SoftMax® Proソフトウェアの事前設定済みプロトコールを使用してSpectraMax i3xおよびSpectraMax iD5プレートリーダーで測定しました(装置固有の設定は表2および表3参照)。両リーダーでマイクロプレート最適化とリード高さ調整を行い、アッセイ感度とダイナミックレンジを最適化しました
| Parameter | |
|---|---|
| Optical configuration | HTRF Detection Cartridge |
| Read mode | TR-FRET |
| Read type | Endpoint |
| Wavelengths | Excitation: 340 nm Emission 1: 616 nm Emission 2: 665 nm |
| PMT and optics | Number of pulses: 30 Excitation time: 0.05 ms Measurement delay: 0.03 ms Integration time: 0.4 ms Read height [optimize] |
表2. SpectraMax i3xプレートリーダーでのHTRF cAMP HiRangeアッセイの最適化設定
| Parameter | |
|---|---|
| Read mode | TR-FRET |
| Read type | Endpoint |
| Wavelengths | Select ‘Use Filter’ for both Ex, Em. Excitation: 340 nm Emission 1: 616 nm Emission 2: 665 nm |
| PMT and optics | Number of pulses: 50 Excitation time: 0.05 ms Measurement delay: 0.1 ms Integration time: 0.6 ms Read height [optimize] |
表3. SpectraMax iD5プレートリーダーでのHTRF cAMP HiRangeアッセイの最適化設定
※HTRF測定には、HTRF検出システムに含まれるEnhanced TRFモジュールおよび励起・蛍光フィルターを装着する必要があります。
データ解析
解析は、HTRFアッセイ用にCisbioが特許取得した比率低減法に基づいて実施しました。この方法は、検出された2つの発光波長に基づきます。ドナーの616 nm発光は内部参照として使用され、アクセプターの665 nm発光はアッセイ対象の生物学的反応の指標として使用されます。この比率測定により、ウェル間のばらつきが減少し、化合物干渉が排除されます。ステップ4で計算されるDelta Fは、アッセイのシグナル対バックグラウンドを反映し、アッセイ間比較に有用です。結果は665 nm/616 nm比から計算され、Delta Fとして以下の式で表されます:
$$ 1. \text{Ratio} = \frac{\text{Emission}_{665\ \text{nm}}}{\text{Emission}_{616\ \text{nm}}} \times 10^4 $$
$$ 2. \text{Mean ratio} = \frac{\sum \text{ratios}}{n} $$
$$ 3. \text{CV} = \frac{\text{Std deviation}}{\text{Mean ratio}} \times 100 $$
\( \text{(Ratio}_{\text{neg}} = \text{Ratio of negative control)} \)
データはSoftMax Proソフトウェアを使用して生成・解析されました。同ソフトウェアには、上記の手順を組み込んだ複数の事前設定済みHTRFプロトコールが含まれており、検出と解析を簡素化します。
結果
データは上記の方法で解析され、SoftMax Proソフトウェアで4パラメータカーブフィットを用いてグラフ化しました(図2)。最適な結果は、表2(SpectraMax i3x)または表3(SpectraMax iD5)に示すプレートリーダー設定で得られました。これらの設定は、Cisbioと共同で最適化され、プレートリーダーのHTRF互換性認証に使用されました。遅延時間、積分時間、パルス数を変更すると、最適な結果が得られない場合があります。アッセイの適合性は、EC₅₀およびシグナル対ノイズ比で評価され、Cisbioの基準ではそれぞれ≤ 25 nMおよび≥ 20である必要があります。両プレートリーダーのEC₅₀値は非常に類似しており、許容範囲内でした(表4)。シグナル対ノイズ比はSpectraMax iD5でわずかに改善されましたが、両プレートリーダーとも許容値を超え、CV値は6%未満でした。SpectraMax i3xおよびSpectraMax iD5プレートリーダーは、cAMP Gs HiRangeアッセイにおいて高感度と広いダイナミックレンジを提供します。
図2. HTRF cAMP検量線 HTRF cAMP検量線は、SpectraMax i3x(緑の円)およびSpectraMax iD5(赤の円)リーダーで測定しました。SpectraMax iD5のアッセイウィンドウはわずかに広いですが、両プレートリーダーともアッセイ品質は優れており、CV値<6%、R²=0.999でした。
| Parameter | Passing | SpectraMax i3x | SpectraMax iD5 |
|---|---|---|---|
| EC₅₀ | ≤ 25 nM | 9.17 | 9.66 |
| Signal/noise | ≥ 20 | 28.1 | 30.5 |
表4. cAMP HiRange標準曲線の結果概要
結論
SpectraMax i3xおよびSpectraMax iD5プレートリーダーは、HTRF認証済み検出カートリッジ(i3x)またはHTRF認証済みモジュールとフィルター(iD5)を装備することで、HTRFアッセイに必要な厳しい仕様を満たします。両プレートリーダーは、Cisbioの要求範囲内でcAMP Gs HiRangeアッセイを実施できることを示しました。SoftMax Proソフトウェアの事前設定済みHTRFプロトコールを使用することで、データ取得と解析が簡素化されます。
参考文献
- http://www.htrf.com/htrf-technology
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