Application Note 幹細胞由来心筋細胞を用いたハイスループット心毒性アッセイ
- 化合物の毒性と有効性を早期に予測
- 高い再現性とスループットを備えた生理学的関連性の高いアッセイ
- 化合物の優先順位付けを支援する迅速かつ簡便なデータ解析
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はじめに
心毒性は、臨床試験で新薬が失敗する主な原因のひとつです。心毒性による化合物の開発中止に伴う非効率性や高コストを改善するためには、ハイスループットスクリーニングに適した高精度なin vitroアッセイの開発が不可欠です。従来の心毒性化合物の特性評価法は、手作業が多く、時間がかかります。マニュアルパッチクランプ法や自動電気生理学的解析は、個々の細胞の単一チャネルしか解析できず、コストが高くスループットも低いのが課題です。その他のハイスループット手法では、データを複雑な外部ソフトウェアにエクスポートして解析する必要があるか、手作業による時間のかかる解析が必要です。FLIPR® Tetraシステム上で動作するScreenWorks® Peak Pro™ソフトウェアを使用することで、幹細胞由来心筋細胞を用いた心毒性化合物の特性評価を迅速かつ容易に行うことができます。幹細胞由来のヒト心筋細胞は、現在利用可能なモデルよりも生理学的関連性が高く、新規化合物の開発を加速し、薬剤の安全性向上に貢献します。ScreenWorks Peak ProソフトウェアとFLIPR Tetraシステムを組み合わせることで、創薬プロセスの初期段階において毒性と有効性を予測するための、堅牢でハイスループットな統合ソリューションが得られます。これにより、特定の化合物を早期に除外または詳細にモニタリングでき、前臨床試験に進めるべき有望なリード化合物の優先順位付けが可能になります。
ハイスループットFLIPR Tetraシステムによる心筋拍動アッセイ
FLIPR Tetraシステムは、GPCRやイオンチャネル受容体に対する初期リード化合物の同定に適した、柔軟かつ信頼性の高いリアルタイム細胞アッセイスクリーニングシステムです。このシステムでは、FLIPR® Calcium 5 Assay Kitを用いて、心筋細胞の収縮に伴う細胞内Ca²⁺フラックスの変化をモニタリングすることができます。アッセイには、Cellular Dynamics International社提供のiPS細胞由来心筋細胞を使用し、FLIPR Calcium 5 Assay Kitの色素をロードして、化合物が拍動細胞に与える影響を評価します。FLIPR Tetraシステムは、96、384、1536ウェルプレートからの読み取りと同時に試薬や化合物を自動添加できるため、異なるタイムポイントでの読み取りによるウェル間のばらつきを低減でき、心筋拍動アッセイにおいて大きな利点となります。 化合物が拍動細胞に与える影響を解析・可視化するための時間応答カーブは、1プレートあたり約2分で取得可能です(図1参照)。

図1:心筋細胞の拍動と化合物の応答プロファイル 384ウェルプレートにおける濃度反応曲線のスクリーンショット。Cor.4U iPS細胞由来心筋細胞に対する化合物の濃度をウェルのK列からC列にかけて増加させており、B列およびL列がコントロールウェルです。化合物添加5分後に測定を実施しました。
ScreenWorks Peak Pro ソフトウェアによる自動ピーク解析
多数の化合物を対象としたアッセイを実施するには、自動データ解析が不可欠です。384ウェル分のトレースを手動でカウントする方法では、解析可能なパラメータが限られ、時間がかかるうえ、ヒューマンエラーのリスクも伴います。データを外部ソフトウェアにエクスポートして解析する方法は、工程が複雑になり、情報の質や自動化・ハイスループット環境での有用性が損なわれる可能性があります。ScreenWorks Peak Proソフトウェアは、FLIPR Tetraシステム上で動作する取得・解析プログラムに統合されており、使いやすいインターフェースと直感的な設定により、ウェルごとの結果を迅速かつ再現性高く取得できます。自動測定による高精度な解析が可能です。
ピークパラメータは、動的なしきい値と微分解析に基づいて算出され、振幅、時間、頻度、速度、幅などの値が得られます(図2参照)。

図2:ソフトウェア解析の出力パラメータ ScreenWorks Peak Proソフトウェアで取得可能な出力パラメータの一覧。
図3は、ScreenWorks Peak Proソフトウェアが潜在的な心毒性を持つ薬剤候補を同定する上で有用であることを示しています。シサプリドのデータでは、拍動頻度の低下、減衰時間の延長、10%振幅におけるピーク幅の増加が確認されました。これらの変化は、QT延長症候群の予測指標となる可能性があり、心臓の安全性に関する重要な示唆を与えます。創薬プロセスの初期段階でこれらのパラメータを特定できることは、前臨床試験に進めるべきでない化合物を早期に除外する判断材料となり得ます。

図3:FLIPR Tetraシステムによる心筋細胞アッセイの解析機能 ScreenWorks Peak Proソフトウェアで取得可能な出力パラメータの一覧。
予測的ハイスループット細胞ベースアッセイ
より強力で安全性の高い新薬の開発には、有効性と安全性を評価できるin vitroシステムが必要です。臨床では、心不全、頻脈、不整脈などの治療に陽性および陰性のクロノトロープ薬が使用されています。FLIPR Tetraシステムを用いたアッセイの結果から、複数の陽性・陰性クロノトロープ薬および既知のイオンチャネル阻害薬が心拍数に与える影響が示されました。得られたEC₅₀値は、期待される範囲内に収まっています(図4参照)。この化合物群には、hERGチャネル阻害薬であるシサプリドも含まれており、ScreenWorks Peak Proソフトウェアを用いて解析されました。シサプリドのデータでは、拍動頻度の低下および10%振幅におけるピーク幅の増加が確認され、いずれも心毒性の可能性を示す指標です。

図4:βアドレナリン受容体作動薬/拮抗薬およびイオンチャネル阻害薬の影響 FLIPR Tetraシステムを用いて、FLIPR Calcium 5色素をロードしたiPS細胞由来心筋細胞に対して6種類の化合物の用量反応を測定。左:濃度に応じた拍動頻度の変化。右:濃度に応じた平均ピーク幅の変化。
結論
FLIPR Tetraシステムは、ScreenWorks Peak ProソフトウェアおよびFLIPR Calcium 5 Assay Kitと組み合わせることで、創薬プロセスの初期段階において心毒性化合物の除外や有望な心疾患治療薬候補の同定を可能にする、完全かつ統合されたソリューションを提供します。
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