Application Note マウス胚性幹細胞のクローン選別
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はじめに
マウス胚性幹細胞(mESC)の培養や細胞株開発では、未分化細胞の標的を絞った増殖が特に重要です。ClonePix®システムの技術は、mESC培養、増殖、細胞株開発における特異性の課題に適しています。このシステムは、白色光または蛍光を用いたmESCの自動ピッキングを可能にします。
後者は生存率染色であったり、ステージ特異的な細胞表面マーカーを検出するアッセイであったりするため、分化したmESCコロニーと多能性mESCコロニーを識別することができます。ClonePix システム技術のこの応用は、幹細胞研究に以下のような利益をもたらします:
- 細胞株の維持:多能性マーカーを用いたクローン幹細胞の増殖の確保
- 細胞株開発:分化細胞に対するスクリーニング
- 遺伝子改変アッセイ:発生研究および遺伝子/幹細胞治療研究における挿入または欠失した遺伝子の発現検出
- 細胞ベースアッセイ:薬剤開発、毒性作用、細胞シグナリングとフィードバック経路
図1. 分化したCGR8 meS細胞と未分化のCGR8 meS細胞
分化領域(A)と未分化領域(B)を示す、大型で分化したCGR8系マウスES細胞コロニー
細胞表面受容体マーカーを用いたマウスES細胞(mESC)の蛍光イメージングおよび検出
多能性を持つマウス胚性幹細胞(mESC)に発現し、分化に伴って発現が低下する受容体を蛍光アッセイで標的化し、ClonePixを用いて撮像することで、多能性を維持している細胞コロニーを選択的にピッキングすることが可能です。その結果、ピッキングされた細胞はクローン性であるだけでなく、未分化であるため、さらなる増殖に適しています。
同じ蛍光検出法を用いて、ClonePixは特定の細胞系譜や異種レセプターの特異性細胞表面マーカーなど、目的のタンパク質を発現している細胞を単離することもできます。
このような細胞表面マーカー(図2)のイメージングと検出は、目的の マーカーに対する蛍光結合抗体を用いて行うことができます。ClonePix システムでは、ユーザーのニーズや結合抗体の入手状況に応じて、さまざまな蛍光色素をイメージングすることができます。さらに、蛍光イメージングを白色光イメージングや最大4つの他の蛍光波長とマルチプレックスすることで、コロニーの形態、生存率、細胞周期のステージなどの追加要因を考慮することができます。
図2. 表面マーカーのイメージングと検出
多能性時にのみ発現するローダミン標識抗SSEA-1(Stage Specific Embryonic Antigen 1)を用いて多能性を検出するため、ClonePix システムで付着増殖したCGR8 mESCのコロニーを蛍光イメージングで撮影(カラー化画像、A)。青丸:摘出して増殖させるべき、まだ多能性の大きなコロニー。
細胞表面マーカーと下流の分化
上述の実験(図2、多能性マーカーSSEA-1に基づくアッセイ)により、ピッキング後の細胞のアウトグロースは良好でした。ピッキング操作による物理的刺激や、SSEA-1受容体への抗体結合の影響によって、分化の程度が上昇することは確認されませんでした。図3に示しますように、元のコロニーからピッキングされたクローン細胞集団の中には、未分化の幹細胞が依然として存在しており(主コロニーの中央の暗い部分)、多能性が維持されていることが示されています。図3はまた、96ウェルデスティネーションプレートにピッキングした後の良好な細胞増殖を示しています。このことは、細胞系譜に影響を与えない抗体ベースアッセイの実現可能性を示しています。しかしながら、蛍光標識抗体でアッセイされた細胞をピッキングする効果は、新しい標的レセプターについて検証されるべきです。
図3. ピッキング後4日間のCGR8増殖
ピッキング後3日目(A)と4日目(B)のCGR8の成長。
方法
mESCの増殖とコロニーピッキング
セルは、2mLの適当な液体培地中で、6穴組織培養プレートのウェル当たり500個 の最終密度でプレーティングします。
コロニーは、約7~10日間かけて直径1~2 mmの大きさまで増殖させます。
最適な増殖を確保し、分化を避けるため、48時間ごとに培地を交換します。
蛍光アッセイを使用する場合、培地はイメージング/ピッキングの2~6時間前 に除去し、検出抗体(PBS/培地で希釈)を300μL加え、5分間インキュベー トして結合させます。その後、細胞をさらに2mLの培地に重ね(抗体は除去せず)、2時間インキュベートします。
標準的な接着細胞ピッキング手順に従って、ClonePix システムでコロニーをピッキングすることができます。
CloneMatrixベースの培地でのmESCの増殖と浮遊コロニーピッキング
図4に示すように、CGR8細胞はCloneMatrixベースの半固形培地(K8510)でも増殖させることができます。20%FCSと0.1M LIFを封じ込めたIMDM培地では、最良の増殖率と生存率が得られました。半固形培地に500cells/mLで細胞を播種し、3-4日間増殖させ、図示のコロニーを得ました。この方法を用いると、細胞を接着コロニーとして増殖させるよりも分化が少なくなります。これらの浮遊コロニーを抗SSEA1でマークし、ClonePix システムでピッキングすることに成功しました。
図4. ピッキング前後のCGR8細胞の成長。
抗SSEA-1染色(図2と同様)でプローブしたCloneMatrixベースの培地でのmES(CGR8)細胞のコロニーの成長と、コロニーの完全性を示すピッキング後の画像。A: 抗SSEA-1抗体で標識したCGR8細胞のClonePix システム画像。明るい蛍光を持つ小さく丸い未分化コロニー(青矢印)と、より大きく不規則で淡い分化コロニー(赤矢印)を示します。B: CloneMatrix/GMEM半固形培地におけるCGR8の増殖です。C: ピッキング後のCGR8コロニーで、クローン性と未分化の形態を示します。
結論
ClonePix システムのユニークなテクノロジーをマウス胚性幹細胞のセレクションや増殖に応用することで、mES細胞の増殖に伴う手間のかかるボトルネックを取り除き、最も未分化なコロニーだけを確実に増殖させることができます。当社の半固形培地を使用することで、未分化のコロニー数が実際に増加し(おそらく細胞が何にも接着しないため)、効率がさらに向上します。したがって、ClonePix システムは、多能性幹細胞株の増殖(多能性を示す蛍光マーカーの使用の有無にかかわらず)、あるいは当社独自の蛍光イメージングプロセスを使用した分化経路の下流での選択および細胞ベースアッセイのいずれにおいても、mES細胞研究のための強力なツールをご提供します。
試薬および消耗品
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